大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(ヨ)4044号 決定

申請人 菊地良夫 外三名

被申請人 豊国交通株式会社

主文

1  申請人等が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位を仮に定める。

2  申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

第一申請の趣旨

申請人等代理人は主文と同趣旨の仮処分命令を求めた。

第二当事者間争ない事実

申請人菊地、同相川、同横倉がタクシー営業等を目的とする被申請人(以下、会社という。)に期間の定めなく自動車運転手として雇用され、申請人宇田川も自動車運転手として雇用され(期間の定の有無、試採用かどうかについて争がある。)ていたが、会社は昭和三二年六月二一日申請人菊地、同相川、同宇田川に対し同月二二日申請人横倉に対し解雇の意思表示をしたことは当事者間争ない。

第三申請人等の解雇の経緯

一  労働組合の解散と親睦会の結成

会社の従業員は昭和二八年九月労働組合を結成したが、右組合は昭和三二年四月解散し、同月より会社従業員等が親睦会を結成したことは当事者間争ない。

疎明によれば

1  会社々長柳原安造は昭和三二年二月下旬当時会社の自動車運転手であつた芹沢開蔵に対し「組合は悪いものだから米田武(会社の自動車運転手、後に親睦会の会長)と一緒に組合を潰して貰いたい。なお、組合の委員長である小沢健樹には内諾を得ており組合はつぶせるようになつているから」と話し、その運動費として芹沢に金二万円を交付し、同人はその趣旨の金として米田に金一万円を交付したこと

2  その頃より、芹沢は二三〇人の組合員に「親睦会を作れば、会社が沢山金を出すから困るときには金を貸してくれるし、盆暮の宴会や旅行を必ずやつてくれる。親睦会に入らないで組合に残つているものは一銭も貸して貰えない」といつて喧伝し、親睦会結成の署名をとつて歩いたこと

3  その結果組合執行委員会は組織を維持するか親睦会に改組するかについて協議をしたところ、申請人菊地、同横倉、同相川等は組合存続に賛成したが決定せず、組合大会にはかることとなり、同年三月二〇日頃二回に亘つて会社三階で大会が開かれ、右問題が審議されたが、その際会社は秘密にテープレコーダーで大会における発言を録音し、組合役員の一部は右録音を事前に知つていたこと、

その後も組合員の中から親睦会加入の署名をするものが段々と増加するに至り、組合に残留する者は二一名程度となつたので、申請人菊地、同相川等の主唱で残留者は協議をし、(イ)この際そろつて親睦会に加入し、親睦会における主導権を握つた方が有利なこと、(ロ)その加入の条件として(すなわち組合解散の条件として)親睦会にも賃金、退職金、事故負担金等の事項について団体交渉権を持たせるよう要求することに決定し、同月二五日申請人相川等の組合役員が社長に親睦会に加入するが、親睦会に団体交渉権を持たせるように申し入れたが、社長は「とんでもない話だ。組合をつぶしたから、親睦会に入れてくれというなら聞くが、そんな申入を聞くことはできない。」といつて一旦は拒絶したが、その直後小沢組合委員長の同様の申入を社長は承諾したこと

4  以上の経緯で組合員全員も組合解散もやむなしとする気持になつたので、同月二九日、三〇日に組合大会を開いて組合解散と親睦会結成を決議し、同会の役員の選挙をしたが、その際社長は組合を解散して親睦会にしたことについて札をいい、「組合は金がなくて何もできなかつたと聞いているが、親睦会には金があるから融通してやる。親睦会発足の意味で四月に旅行をする。歩合も一割引き上げる。」との挨拶をしたこと

なお、親睦会の役員には、申請人横倉、同菊地、同相川等を含む八名が選挙され、なお社長推薦の役員二名を加え、社長もその名誉会長となつたこと

の諸事情が認められる。

二  組合の再結成

疎明によれば

1  親睦会結成後、歩合の引上げ等の当初の社長の言明が必ずしも実行されず、却て親睦会からの貸付金は組合の場合と違つて利息がつけられ、その利率も月一歩、のちに三歩となり、更に社長から事故負担金を引き上げるような話もあり、これに反対して一部親睦会役員が脱退するようになつたので、申請人相川、同宇田川、申請外加川などが中心となつて昭和三二年五月一〇日頃従来の組合役員は社長に相当の借金があり、社長に強いこともいえないような状況だつたことに鑑み、今度は従来の組合の中堅級を中心として組合を組織する相談を始め、申請人相川、同宇田川が労政事務所に組合結成の相談に行き、更に同宇田川が関東旅客自動車労働組合同盟と連絡をし、会社の運転手に組合結成の趣旨を話し、賛成者から署名をとり始めたこと

2  ところが右の三名は比較的入社後の経歴が浅かつたので、同僚運転手に組合加入を勧誘するにつれ同僚から「古参の運転手が組合結成の運動に参加しなければその結成もうまくいかないのではないか。」という意見が述べられたので、申請人相川等も同月下旬頃古参の運転手で親睦会の会員に勢力のある申請人菊地、同横倉に話してその結成運動に参加して貰い、以後は申請人等と申請外加川等がその運動の中心となり、署名運動を行い、従業員一〇〇人程の内四三人程の賛成を得て昭和三二年六月一九日頃申請人菊地の自宅において申請人菊地、同相川、同横倉を含む会社従業員七、八名がここ二、三日の中に結成大会をもつため、規約案の作成、結成大会の進行順序、委員長を申請人相川、書記長を同宇田川、執行委員を同菊地、同横倉等にする等の組合役員の候補者選定などの相談をするに至つたこと

3  同年六月二三日頃(申請人等の解雇後)申請人宇田川、申請外加川等が組合の結成届を社長に提出したところ、社長から申請人等はすでに解雇されているから、同人等を組合員名簿から削るよう要求されたこと、

の諸事情が認められる。

三  会社側の組合結成に対する認識、解雇時の状況

疎明によれば

1  昭和三二年六月一九日頃会社々長の長男柳原徹(会社の従業員)は、前記一の1認定の組合解散、親睦会結成に働いた会社運転手芹沢開蔵に「今度また組合をつくるらしいから従前どおり協力して貰いたい。」といつたこと

2  同日頃申請人横倉が申請人菊地宅に行われた組合結成のための集会から会社にもどると、当時まだ申請人横倉が組合結成に関係しているとは知らなかつた社長から「今小沢とか内川とかが情報を集めているが、申請人菊地のところへ上野とか大塚などの運転手が集つているらしいから行つて見て来てくれ。」といわれたので、再び申請人菊地宅に戻つて更に会社に行き、社長に上野や大塚は集つていなかつたと報告したところ、社長から「いやそんなことはない。こちらには情報が集つているのだから。」といわれたこと

3  同日頃申請人宇田川が社長に金借を申し入れた際、社長から「古い奴に扇動されたらだめだぞ。とにかくまじめにやれ。悪いようにはしないから。」といわれたこと

4  同月二〇日頃申請人菊地が会社に出勤すると社長から「何もいわずに退職届を出してくれ。」といわれ、その理由を聞かない中は退職届を書くわけにはいかないと返事をしたところ、社長から「組合なんかもそうじやないか。自分達が協議して組合を解散しながら、また今になつて騒いでいる。」といわれたこと

5  同日夕刻申請人菊地の解雇が会社内に掲示されたが、社長は翌二一日朝その貼紙を見ていた五、六人の従業員に対し「組合運動をやつたり、くだらないことをやるとこういうことになるのだからよく見ておけよ。」といつたこと

6  同月二一日柳原正一(会社監査役、社長の弟)が申請人菊地に対し、同申請人のところに組合運動の連中が行くので、社長がおこつて解雇した旨の発言をしたこと

7  同日朝申請人横倉が出庫しようとしたとき社長から「今日は加川の家に四〇人くらい集ることになつているが、君はそんなところに行つてはいけない。」といわれたこと

8  同月二三日頃同申請人が社長のところに行き解雇の理由が判らぬといつたところ社長から「君のようにあつちに行つてはうまいことをいい、こつちへ来てはうまいことをいうような奴は解雇だ。会社の者でないから発言権はない。」といわれたこと

の諸事情が認められる。

第四会社のいう解雇理由の不明確ないし不存在

一  会社は昭和三二年六月に入り営業成績が著しく低下したので、同月一八日取締役会を開催し、その対策の一として不良運転手を一掃するため欠勤の多い者、メーター不倒行為の多い者を解雇し、従業員の気分一新を図ることを決定したが、その第一次の解雇に申請人等が該当したと主張する。

しかし、右主張の営業成績の低下については、これを認めるに足りる具体的疎明がなく、また前記六月一八日の取締役会において右のような決議がなされたことについては疑問が多く、乙第四一号証(六月一八日附取締役会議事録)に署名押印している大田誠(営業担当取締役)はかかる役員会に出ていないというし、不良運転手を解雇しようという重役間の話合いはなく何とか教育しなければならないという話はあつたという程度であるし、更にこの取締役会の決議があつたとしてもその決議の実施として申請人等を解雇したかどうかについて見ると、本件解雇の決定については、酒井経理担当取締役は「自分は関係していないが大田取締役が知つている。」といい、大田取締役は「自分は関係していないが、酒井取締役が知つている。」と陳述する程度で、到底申請人等が前掲取締役会の決議の実施として解雇されたとは考えられず、会社が申請人等の勤務成績を他運転手全員の成績と比較して検討して見たことを窺うに足りる疎明もない。

更に会社は「申請人等は会社が不良運転手を一掃することにしたとの噂を聞いたので、その解雇防止のため急遽組合の準備会を開いた。」と主張しているが、柳原安造の陳述書によれば社長が不良運転手の解雇を考えたのは早くとも昭和三二年六月一〇日以後であるが、会社側の立証(籔内新之助の速記録)によつても、同年五月中に会社運転手四〇名以上が組合結成連名簿に署名していたことが認められるので、右主張は到底肯認しがたいところである。

二  申請人菊地の解雇理由について

1  同申請人が自家用車を所有していることは当事者間争ない。会社が解雇理由として挙げている同申請人が石田自動車を流行歌手やホテル等に賃貸したこと自体は会社主張のように就業規則第二条に定めるす業員の自己の職務に対し責任を重んじ業務に精励する義務に違反する行為にはあたらない。

殊に同申請人は右自動車に昭和三一年一一月会社取締役酒井章のため抵当権を設定し、なお、会社の経営する国際ドライブクラブの使用に供していたこともあつたのであるから、会社としても同申請人が右自動車の賃貸等を行うことをつとに了承していたものと認むべきものである。

2  会社の挙げる解雇理由である同申請人が昭和三二年五月頃会社の自動車で営業に出ながら途中第三者に運転させ自己の仕事に行つたことは同申請人も明らかに争つていないが、疎明によれば、同申請人が営業中途中で第三者と交替することは会社も知悉していて、当時同申請人と交替した運転手がメーター不倒行為をした旨の通知が来たところ、社長は同申請人に対し「同申請人がしたことでないことはわかつているから。」といつてその通知書を同申請人の面前で焼き捨てた上「これでいいだろう。」といつたことが認められるのでかかる事情が本件解雇を決定した事情となつたとは認められない。

3  更に会社は同申請人が昭和三二年二月中四回、四月中一回、五月中四回、六月中二回無断欠勤したり担当車輛がクラウンでなければいけないなどの文句をいつて帰つたりして自己の自動車を運転したと主張する。

しかし疎明によれば、同申請人の同年二月中の欠勤は病気のためでありしかも正式の届出をしたことが認められ、同年三月は一五日同年四月は一四日出勤して、出勤日数において全員の平均より一日多く、また営業成績もいずれも平均以上の成績を挙げていること、また同年三月以降はクラウンの配車を受けていることが認められる。

同年五月は一一日出勤でいいとはいえないであらうが、同年六月は二〇日(会社は六月二〇日も同申請人が職場放棄をしたと主張するが、疎明によれば同日会社は同申請人の就労を拒否して退職の勧告をしたものであつて、同申請人の職場放棄とは認められない。)まで八日間出勤しているので、昭和三三年二月以降同申請人が理由なく職場を放棄したことが他の従業員に比して多かつたと認めることはできない。

4  なお、同申請人がガソリンを抜き取り、又は自動車事故の際警察と話合いをするについて同僚に金員を要求したとの点についてはこれを認めるに足りる十分な疎明もない上、弁論の全趣旨と疎明によれば会社がかかる事情を解雇の際すでに考慮していたとは認められない。

三  申請人相川の解雇理由について

同申請人が昭和二九年八月一日会社笠原営業課長と、また昭和三一年六月九日会社従業員三谷亮と喧嘩をしたことは同申請人の認めるところであるが、これらの事件は労働組合の委員長のとりなしで同申請人の始末書提出で一応落着しており、かつ、これらの事情は本件解雇前一年ないし三年近くも前のことでもあり、同申請人に対する解雇通告書にも記載されていないことから見ると本件解雇を決定する事情となつたとは認めがたい。

更に会社は同申請人が昭和三二年六月八日以降五回も無断欠勤をしたというが、疎明によれば(イ)同申請人は同月七日より風邪にかかり六月一〇日その妻を通じて会社職員沼尻健三にその旨を告げ、しばらく休ませて貰いたいといつたところ同人の了解を得たこと、(ロ)四月一六日出社し、同月八日より一四日までの病気について医師の診断書を持参した旨を会社庶務係に告げたところ、それならよいからといわれたこと、(ハ)六月二〇日は出勤し通常どおり勤務していることが認められる。

もとより同申請人としては、出番に当る同月八日出勤時間前に病気欠勤の届出をすべきであつたと思われるが、これ以外には別に責むべき点もなく、またないことは会社の知つているところであるから、かかる欠点だけで同申請人を解雇にしたものとはたやすく考えられないところである。

四  申請人宇田川の解雇理由について

1  会社は同申請人は昭和三二年二月試に採用したものと主張するが、会社の就業規則には試採用の制度がなく、採用当初の三ケ月間を見習期間とする制度をとつているに過ぎず、しかも見習期間中の者の解雇その他の待遇に関し特別の定めがないので、同申請人と会社との雇用契約は当初より期間の定めのないものと認められる。

また同申請人は会社庶務係より君は本雇になつたといわれて見習期間を経過した運転手と同一の賃金体系による昭和三二年五月分を含む給与の支払を同年六月に受けたことが認められるから、遅くとも、入社後三ケ月経過後は期間の定めのない雇用関係になつたものと認められる。

2  会社は同申請人の経歴詐称を理由として解雇したというが(イ)同申請人に対する解雇通告書にはかかる記載が全然なく、無断欠勤の点のみを挙げていること、(ロ)当時の会社の就業規則には経歴詐称を解雇の理由としていなかつたこと、(ハ)同申請人の入社の際徴すべき誓約書(会社に提出した履歴書に偽りのないことなどの誓約書)を差し入れさせずに放置していて、このことを解雇後気がついたことなどから見ると、同申請人に対する解雇は経歴詐称を理由としたものとは認められない。

次に無断欠勤の点については、同申請人が昭和三二年五月中四回、六月一八日まで三回の無断欠勤があつたことの疎明はあるが前記第二、三、3認定の社長の発言から見れば、同月一九日まではその程度の事由で同申請人を解雇する意思はなかつたものと見るのが相当であり、従つて同日以後起つた事情により同申請人の解雇が決定されたと認めるのが筋合である。

五  申請人横倉の解雇理由について

1  会社は同申請人の解雇理由として、同人は昭和二七年一〇月以降昭和三一年六月まで一二回のメーター不倒行為をした上に昭和三二年五月二五日メーター不倒行為をしたといい、その疎明はあるが、(イ)同申請人は同月二六日朝社長に自分は親睦会の役員でありながらエントツ行為をして申訳ないと親睦会の副会長の辞任届を提出したところ、社長から「そんなことをする必要はない。君達は指導委員会に雇われているんじやないのだから、自分がいいと言えばいいのだ。後日給料日に過怠金を差し引いてあれば自分のポケツトマネーを出してやるから心配せずに働くように。」といわれたこと、(ロ)右メーター不倒行為は六〇〇円程の距離を五〇〇円に値引きしたもので、同申請人は五六〇円を会社に納金していることから見るとかかる事情が本件解雇を決定する事情となつたものとは認められない。

2  更に会社の挙げる「同申請人が昭和三二年六月一九日出勤日であるのに無断欠勤し、自家用車を運転し、終日営業行為をし、翌二〇日午前一時頃、内幸町所在大阪ホテル前において丸の内署員によつて取調を受けた。」との点については社長が一時かかる疑を持つたことも無理からぬ事情があつたと認められるが、結局丸の内署としては同申請人の大阪ホテル前における駐車を規則違反として取り扱つていることが判明し、社長も同日同申請人に対し「車を買つてしまつたことであるし、会社経営のドライブクラブへ入れて面倒を見てやるから、同クラブへ車を持つて行くように。自動車代の月賦が支払えないときは考えてやる。」ということになり、同申請人もこれに応じ自動車を会社のドライブクラブに入れ翌二一日には通常どおり働いたが、当日朝出庫の際社長から前記第三、三、7認定のとおり「加川の家に今日四〇人くらい集ることになつているがいかないように」といわれたこと、更に解雇後前認定のとおり、「あつちへ行つてはうまいことをいい、こつちへ来てはうまいことをいう奴は解雇だ。」といわれたことが認められるので、いわゆる「自家用車による営業行為」が本件解雇を決定づけたとは認められない。

第五不当労働行為の構成

以上のとおり、(イ)会社主張の申請人等の解雇の理由が本件解雇を決定づけたと見るべき事情に乏しく、(ロ)前記第三認定の労働組合解散の事情、(ハ)同認定の組合の再結成とこれを推進した申請人等の役割、(ニ)同認定の会社側の組合再結成に対する認識、雇解時の状況、(ホ)組合再結成の中心となつた申請人等が組合成結大会の直前殆んど同時に解雇された事情とを綜合して見れば、本件解雇は申請人等が労働組合を結成しようとしたことを理由としてなされたものと認めるのが相当である。

従つて本件解雇の意思表示は労働組合法第一号に違反し、憲法第二八条の期待する労使関係の公序に反するものとして無効というべきであり、申請人等は会社に対し雇用契約上の権利を有するものといわなければならない。

なお、会社は申請人相川、同宇田川が解雇予告手当を受領したことをもつて「解雇の承諾」があつたと主張する。

会社のいう「解雇の承諾」の趣旨は必しも明確ではないが、疎明によれば、会社は労働基準監督署長に申請人等の解雇予告についての除外認定の申請をしたところ、申請人相川、同宇田川については到底認定を受ける見込がないことが判明したので、会社に本件仮処分申請書副本が送達された後である昭和三二年七月一三日右両申請人に予告手当を交付したが、その際同申請人等も本件金員受領により本件解雇に関する紛争を解決する趣旨で受領したわけではなく、酒井取締役も会社の方も今閑だから、本件訴訟で大いに争うという趣旨の発言をしていることが認められるから右予告手当を受領したことが右申請人等において本件解雇に関し争う権利を放棄したものとは認められず、その他予告手当受領の故により申請人等の雇用関係を終了させる事情が生じたとは認められない。

第六仮処分の必要性

申請人等のように賃金を主たる生計の資としている労働者が解雇が無効であるのにかかわらず、従業員として扱われないことは重大な損害と認められるから、主文第一項の仮処分をする必要があると認められる。

第七結論

以上のとおり、申請人等の本件申請は理由があるから、これを認容し、申請費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 西川美数 大塚正夫 花田政道)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例